主人は太郎・次郎二人に留守をさせて、どこかに出かけて行きます。そのときに、わざわざ附子の入った桶を出してきて、附子は大毒で、その方から吹く風に当たっただけで滅却するから気をつけろと、脅すように言い残して行きます。
このとき「附子」と「留守」の類音関係を滑稽な誤解という笑いの要素に取り入れています。
そもそもこの主人はなぜわざわざ附子を出してきて、「触るな」などと言って出かけるのでしょう。見るなといわれると見たくなるのが人情なのに。
……というような疑問がわいてきますが、狂言にはよくある脚本上の小さな欠点で、名人芸の前ではそんなことは大したことではなくなります。
鬘桶(かずらおけ)
附子は鬘桶と呼ばれる、直径30㎝、高さ45㎝ほどの黒い漆塗(蒔絵が施されている場合もある)の円筒に入れられています。本来能に使用する鬘を入れるための道具ですが、それを小道具として、荷物に見立てたり、腰を掛けたり、蓋を盃として利用したりと、様々な用い方をします。
<附子>では、附子が入っている桶として使われています。 登場人物たちの演技力によって、ただの鬘桶ではなく、主役といっても良いくらいの存在感を放つことになります。