[附子 第1回]太郎冠者・次郎冠者に留守番をさせて出かける主人

附子(ぶす)

主人は太郎・次郎二人に留守をさせて、どこかに出かけて行きます。そのときに、わざわざ附子の入った桶を出してきて、附子は大毒で、その方から吹く風に当たっただけでめっきゃくするから気をつけろと、脅すように言い残して行きます。

このとき「附子」と「留守」の類音関係を滑稽な誤解という笑いの要素に取り入れています。

そもそもこの主人はなぜわざわざ附子を出してきて、「触るな」などと言って出かけるのでしょう。見るなといわれると見たくなるのが人情なのに。

……というような疑問がわいてきますが、狂言にはよくある脚本上の小さな欠点で、名人芸の前ではそんなことは大したことではなくなります。

鬘桶(かずらおけ)

附子は鬘桶と呼ばれる、直径30㎝、高さ45㎝ほどの黒い漆塗(蒔絵が施されている場合もある)の円筒に入れられています。本来能に使用する鬘を入れるための道具ですが、それを小道具として、荷物に見立てたり、腰を掛けたり、蓋を盃として利用したりと、様々な用い方をします。

<附子>では、附子が入っている桶として使われています。 登場人物たちの演技力によって、ただの鬘桶ではなく、主役といっても良いくらいの存在感を放つことになります。

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三宅 晶子

横浜国立大学名誉教授。中世日本文学(特に能楽)、古典教育を専門とする。『歌舞能の系譜――世阿弥から禅竹へ』(ぺりかん社、2019年)ほか、能楽・古典教育に関する著書多数。

岩田 千治

奈良大学文学部国文学科。高校・大学で美術部に所属し、第29回奈良県高校生アートグランプリでは、平面の部 特別賞を受賞した。奈良大学の講義ではじめて狂言に接し、その感動をイラストで表現している。

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