[川上 第6回]目が開いた!

川上(かわかみ)

そうこうするうちに、目がかゆくなってきて、だんだん明るく感じるようにもなります。

そしてとうとう目が明きます。

まずむずがゆくなった目が光を感じ、やがて見えるようになるという過程を、テンポ良くスピーディーに演じていきます。

絵でもすごく喜んでいますね。

ところが、実は目を開けて貰うために条件が付けられていたのです。

一体どんな?!

困ったことは後回し、今は再び見えるようになった幸せを噛みしめようと思っています。

今までの習慣のままに、杖を付いてよろよろと歩きかけますが、もう目が見えるので、杖は入らないことに気づき、その場で捨ててしまいます。

思わず杖を付いていたというところは、クスッと笑える場面ですね。さぞかし嬉しいのだろうなあと、見ている方もウキウキした気分になるところですが、幸せ気分が画面に溢れていますね。

画面が舞台全体に切り替わると、向かって右奥、笛座近くに妻が座っているのが見えます。先ほど家の前で見送った後、妻は退場したはずなのですが、実はその場に静かに座ったのです。ビデオではそこを映していないので、この場面に来るまで気づきませんでした。狂言で良く使う演出法です。もう一度登場する人物の場合、立ち去った体で笛座や正面奥などに、座ります。登退場で主役の演技の邪魔をしない配慮でしょうか。居ないつもり、見えないつもりということなので、存在感を消しています。

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三宅 晶子

横浜国立大学名誉教授。中世日本文学(特に能楽)、古典教育を専門とする。『歌舞能の系譜――世阿弥から禅竹へ』(ぺりかん社、2019年)ほか、能楽・古典教育に関する著書多数。

岩田 千治

奈良大学文学部国文学科。高校・大学で美術部に所属し、第29回奈良県高校生アートグランプリでは、平面の部 特別賞を受賞した。奈良大学の講義ではじめて狂言に接し、その感動をイラストで表現している。

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