

橋掛りに座っていた茶屋が立って、舞台に入ります。
開店準備のために雨戸を開ける様子が描かれていますね。扇を上手く使って、擬音だけで、扉が開けられていく様子がそれらしく表現されています。

和泉流と違って短い場面で、戸を開けて空を見上げるとみるみる雪が降ってきたと言い、正面奥に座って、火の準備を始めます。

橋掛かりを渡って男が登場し、近所に住む者だと名乗ります。
山一つ向こうに甥が居るのだが、この度普請をするので木を貰うことにしたのだが、一向に音沙汰がないので、今日は確認に行くのだと名乗ります。

ちょっと歩いて行くと急に空がかき曇り、みるみる雪が降り積もり始めます。あわてて側にある茶屋に駆け込み、難を避けます。

伯父と甥の家は山一つ隔てただけの近所なので、往来が和泉流よりも気楽にできる感じがありますね。
雪が急に激しく降り出してしまったことが印象づけられています。伯父はわざわざ雪の中を出てくるはずはないので、その辺りが強調されているのでしょう。絵では、雪雲が空を覆い始めている様子と、急に激しく降り出した雪に驚く伯父の様子が、捉えられています。

伯父は、雪宿りのつもりで茶屋に入り、熱い茶を所望します。
伯父と茶屋は顔見知りなのでしょうが、馴れ馴れしい付き合いではありません。伯父は太郎冠者の主人同様、ちょっとした在地領主ですから、身分的な上下もあります。伯父は脇座に出された鬘桶に腰掛け、美しい所作で茶を飲みます。その雰囲気が印象的だったのでしょう。絵では茶を飲む姿を大きく捉えていますね。

この時使用される鬘桶は、〈附子〉では砂糖の保存容器として利用されていましたね。ここでは腰掛けとして使われています。小道具として色々な使われ方がします。湯飲みは、盃同様、鬘桶の蓋です。大きいので観客席からよく見え、便利だったのでしょう。

伯父は二杯目のお茶をお代わりした後、少し休ませてくれと言って、奥の別室へ入ります。舞台では笛座あたりで後ろを向いて座ります。茶屋は正面奥に客席の方を向いて座っています。鬘桶は後見が片付けます。観客席からは二人の姿が見えていますが、存在感は消してしまうので、この後の場面で二人が気になることはありません。