
登場人物
シテ(主役) 太郎冠者
アド(相手役) 主人
アド(相手役) 茶屋
アド(相手役) 伯父


太郎冠者が主役の、小名狂言(太郎冠者物)に属する狂言です。附子と同じですね。アド役として、主人の他に、茶屋と伯父も登場します。
それぞれのアドと対応する場面が異なり、狂言ならではの大胆な演出が連続する、ダイナミックな構成の狂言です。授業で扱う教材としては4曲目となっているので、狂言の世界に少し親しんできているころです。ここでドーンと、とにかく面白い大曲を見ることにします。
あらすじ
奥丹波の者が、都の伯父に歳暮を届けようと思い、太郎冠者を呼び出す。木を六駄と炭を六駄、十二匹の牛に付けて置いたので、これを一人で引いていけという。今にも雪が降りそうな日で、おまけに手作りの酒一樽(角樽)と手紙まで持たされる。無理だと一度は断る太郎冠者だったが、綿入れの綿も多く入れてやるし、新しい足袋を出してやると言われて、引き受けてしまう(主人・太郎冠者退場)。
場面は変わって、老ノ坂峠。寒そうにしながら茶屋がやって来る。近年に無い大雪だし、今日は客も来ないだろうと言いながら、店を開ける。
再度場面は変わり、老ノ坂までの山道。太郎冠者が「サセイ・ホーセイ」と声を掛けながら十二匹の牛を連れ、手紙を胸に入れ、酒樽を肩に掛けて、姿を現す。雪が激しく降り出し、ただでさえ険しい山道を、言うことを聞かない牛たちと格闘しながら、泳ぎ着くようにして茶屋にたどり着く。
茶屋で酒を飲んで温まることだけを楽しみにやってきたのに、茶屋では酒を切らしているとのこと。がっかりする太郎冠者に、茶屋は主人からの手土産の酒を飲めばよいと言う。それだけは絶対に駄目だと最初は頑張っていた太郎冠者だったが、誘惑には勝てず、手を付けてしまう。一杯のつもりが二杯となり、茶屋にも飲ませてよい気分になり、酒盛りが始まってしまう。肴にと鶉舞を舞う太郎冠者、とうとう全部飲み干し、気が大きくなっている太郎冠者は、木一駄を茶屋にプレゼントし、残りを春の小遣いにするから売りさばいてくれるように頼んで、小雪となった京への道を、よい気分で小謡など口ずさみながら、下っていく。
またまた場面が変わって、都の伯父の屋敷。伯父は状を見て、木六駄が無いことを不審がると、太郎冠者は、改名して木六駄となったので、「木六駄に炭六駄参らせ候じゃ」と嘯く。酒はどうしたと問い詰められて寒さについ飲んでしまったと白状し、怒った伯父に追い込まれて逃げる。
「木六駄」について
江戸期を通じて和泉流の曲でしたが、大蔵流では明治期以降通行曲として演じるようになりました。両流で筋立てや演技内容に大きな違いがあります。
授業では、まず上演台本の字幕が付いている和泉流のビデオ1)を見ます。もうこの頃になっていると、字幕さえあれば十分理解し楽しめるくらいに狂言に親しんできています。次の時間に六世野村万蔵のビデオ2)を見ました。これは字幕がありませんが、前時間の映像とほぼ同じことをやっています。字幕なしでも二度目ならわかること、同じ事を演じていても演者によって違うものになることを知ってもらうために、このようなやり方を行いました。能や狂言は、授業で同じ動画を繰り返し見ることは、理解のために大変役立つと私は考えています。
今回の絵は、この二回分が合わせられた形で表現されています。大蔵流の「木六駄」は、別の回の授業で取り上げました。
1)野村万作,野村萬斎:狂言でござる DVDビデオ「野村万作狂言集」,第4巻,角川書店,2001年.野村万作(太郎冠者)・石田幸雄(主人)・野村萬斎(茶屋)・野村万之介(伯父)、会場は中尊寺能楽堂.
2)1978年5月14日 NHK教育テレビ放映.野村万蔵(太郎冠者)・野村万作(主人)・野村万之丞,現在の萬(茶屋)・三宅藤九郎(伯父).会場はNHKホール.