[寝音曲(和泉流)第3回]膝枕してもらわないと謡えない!?

寝音曲(ねおんぎょく)和泉流

さていよいようたうというときになって、太郎じゃは実は子持ち(妻)の膝枕で寝てでないと声が出ないのだと言い出します。これがさっき思いついた良い方法だったようです。日を改めて夫婦連れで来て謡いますからと、なんとか逃れようとするのですが、主人はとうとうそれならば私の膝を貸すと言い出します。

主人のごり押しに迷惑顔の太郎冠者、そんなことどこ吹く風の主人、二人の様子がよく捉えられていますね。

主人の膝枕でうたいを謡うなど、前代未聞。ここまで来るともう言い逃れができないので、太郎冠者はしぶしぶ主人の膝枕で謡い出します。

和泉流では膝枕といってもそれほど身体を寝かせているわけではなく、片肘を付いてほんの少し身体を斜めにした感じの姿勢です。

絵では省かれていますが、ここで太郎冠者は主人にじゃれついて「女ども」と主人の顔を撫でます。主人はびっくり仰天。大杯で三杯も呑んでほろ酔い気分になっているとは言え、この太郎冠者はなかなかしたたか者ですね。

それにしても、背筋を伸ばして姿勢良く、正座して謡うのが当然の謡を寝て謡う、しかも主人の膝を借りて、という常識ではあり得ない設定ですね。勢いでそのようなあり得なさに陥ってしまった太郎冠者の困惑が、笑いを誘います。

さてどうなることやら。

ここで小謡を一曲謡います。曲目の指定はありませんが、授業で用いたビデオでは「小原木」という、色々な場面でよく謡われる小謡の代表と言っても良いような短い謡を謡っています。朗々と良い声で、とても上手です。

余りに謡が上手いので、主人は起きて謡ってみろ、立って謡ってみろと、色々試すのですが、声が出ないばかりか、病が出そうだと苦しみます。

懲りない主人はならばもう一度膝で謡え、今度はもっと長い謡を。とリクエストします。

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三宅 晶子

横浜国立大学名誉教授。中世日本文学(特に能楽)、古典教育を専門とする。『歌舞能の系譜――世阿弥から禅竹へ』(ぺりかん社、2019年)ほか、能楽・古典教育に関する著書多数。

岩田 千治

奈良大学文学部国文学科。高校・大学で美術部に所属し、第29回奈良県高校生アートグランプリでは、平面の部 特別賞を受賞した。奈良大学の講義ではじめて狂言に接し、その感動をイラストで表現している。

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