[靱猿(大蔵流)第3回]大名が猿の皮を所望する

靱猿(うつぼざる)大蔵流

大名は猿を見かけ、猿引に太郎じゃを介して「(のう)(ざる)(芸能をする猿)かと問いかけます。猿引は自慢げに能猿だと答えます。

三宅 晶子

身分の高い者が庶民と直接言葉を交わすことはないので、大名は常に太郎冠者に聞きたいこと、言いたいことを言って、それをその通り太郎冠者が猿引に伝えます。同様に猿引から太郎冠者を通じて大名に答えています。

どちらも本人の言うことがちゃんと聞こえていますから、ちょっとまどろっこしい感じがありますね。けれども能でも狂言でも、この作法は几帳面に守られています。

岩田さんはその様子を一枚の絵にまとめて、それぞれの表情や反応をしっかり捉えてくれています。

名はもっとよく見ようとズカズカ猿に近づいていきます。今まで大人しくしていた猿は、それに反応して大名に飛びかかろうとします。

大名の慌て振りと猿の豹変振りが、可愛く表現されていますね。

太郎冠者は驚いて猿引を叱ります。神妙にお詫びする猿引です。

大名は、猿の毛並みが良く、自分のうつぼにかける毛皮にちょうどよいと思い、鷹揚に許します。 そして、猿引に直接言葉を掛けます。理由を言わずに無理矢理礼を言って、強引に猿引を承諾させるのです。

三宅 晶子

大名が直接猿引に声を掛ける場面で、それまでの太郎冠者を介するよそよそしい感じが無くなり、何かありそうと思わせる場面です。

大名は再び太郎冠者に対して、猿の皮を貸すように交渉させます。

靱に掛けるためにずっと探していた、大きくて毛並みが良い理想的な猿皮だと見て取ったのです。

はじめは戯れ言かと思ったくらい突拍子もない要求に、猿引はびっくり仰天。皮を剥いだら猿は死んでしまうのです。

そのことを伝えると、礼を言わせておいて、断るとは非礼だと大名は怒り、1・2年したら皮は返すから問題ないだろうと、ケロッとしています。

三宅 晶子

人非人としか思えないような大名の言い草に、ただただびっくりしますね。

狂言の中で、いったい大名はどのような人物として描かれているのでしょう。太郎冠者とならんで、興味深いキャラクターですね。

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三宅 晶子

横浜国立大学名誉教授。中世日本文学(特に能楽)、古典教育を専門とする。『歌舞能の系譜――世阿弥から禅竹へ』(ぺりかん社、2019年)ほか、能楽・古典教育に関する著書多数。

岩田 千治

奈良大学文学部国文学科。高校・大学で美術部に所属し、第29回奈良県高校生アートグランプリでは、平面の部 特別賞を受賞した。奈良大学の講義ではじめて狂言に接し、その感動をイラストで表現している。

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