[寝音曲(大蔵流)第5回]「小歌」を謡う太郎冠者

寝音曲(ねおんぎょく)大蔵流

「小歌」は、和泉流で謡う「玉ノ段」に比べると短いうたいですが、室町時代に流行歌謡であっただけあって、能の型にはまらない、自由で伸びやかな、楽しい謡となっています。

和泉流に比べてほとんど横になってしまっている位に寝ているので、それでこんなに良い声でうたえるのかとびっくりしてしまいます。

メロディックで陽気な謡なので、声が出る出ないを面白おかしく見せるにはぴったりの曲です。

寝たまま謡う太郎じゃを不信に思った主人が、身体を持ち上げてみるという動作を繰り返し行っている様子が、二人の表情も含め、上手く絵に描かれていますね。

三宅 晶子

声が出る出ないの変化をスムーズに一続きの謡の中で謡い分けるので、いっそう面白みが増します。

主人はいつから太郎冠者の策略に気づいているのでしょう。和泉流での主従関係とひと味もふた味も違うので、主人がどのような顔や態度で太郎冠者に謡わせているのかにも、注意を払いたいところです。 絵ではしっかり二人の様子が捉えられています。

「玉ノ段」と「小歌」

和泉流の「玉ノ段」は、ドラマチックな内容で、舞も派手な型が多く面白いので、それがどのように狂言で演じられるのかというところに興味が集中します。能と違ってうたいはいませんから、自分で謡いながら舞うのです。その見事さにほとほと感心してしまいます。声が出る出ないを演じている間は、前置きのような感じがするのです。

一方大蔵流の「小歌」の場合、その楽しい内容は、複雑な筋があるわけではなく、気持ちよく物尽くしの歌を聞いていれば良いような内容なので、声の出る出ない、寝て謡う・起きて謡う、立って舞ってしまう、という展開をたっぷり楽しめる演出になっているのではないでしょうか。

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三宅 晶子

横浜国立大学名誉教授。中世日本文学(特に能楽)、古典教育を専門とする。『歌舞能の系譜――世阿弥から禅竹へ』(ぺりかん社、2019年)ほか、能楽・古典教育に関する著書多数。

岩田 千治

奈良大学文学部国文学科。高校・大学で美術部に所属し、第29回奈良県高校生アートグランプリでは、平面の部 特別賞を受賞した。奈良大学の講義ではじめて狂言に接し、その感動をイラストで表現している。

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