
あくまでも拒絶する猿引に対して、大名は矢を射かけます。
太郎冠者もびっくりして慌てて止めようとしますが、大名の怒りは収まらず、猿引ともども射殺すつもりです。
猿引はとうとう折れて、猿の皮を貸そうと申し出ます。

ここでの太郎冠者の行動は注目したいところですね。これまでは大名に従順で、自分の考えや感情などまったく無いかのごとく振る舞っていましたが、ことがここに及んで、身を挺して大名を止めようとします。
その緊迫した場面が、三者三様、猿も入れれば四者四様に、生き生きと捉えられています。

猿を大名に射殺されるのは見ていられない猿引は、せめて苦しませず命を取ろうと、自分で手に掛けると言います。
大名が持っている大雁股(矢じりが二股になっていること)の矢で射ると、猿の皮に傷が付いて使い物にならなくなります。せめて「猿の一打」という、鞭一つで命を取ることのできる急所を自分が打つと言うのです。

猿引は猿を引き寄せ、小猿のころから飼い育てて、いろいろ芸を仕込んだこと、今ではおまえのお陰で一家が生活できていることなどを話します。
決意した猿引が鞭を振り上げると、猿はその鞭を手に取って、舟の櫓を漕ぐ様子を始めたのです。
猿引はそれを見て泣き出します。

猿引は、たとえ自分が射殺させても、猿を手ずから打つことはできないと悟りました。
苛立つ大名に急かされて太郎冠者が催促しますが、猿引は猿を打ってはならないと、きっぱり言います。
太郎冠者から事情を聞いた大名は、自分の命を取るために振り上げられた鞭で舟を漕ぐ芸をすると聞いて、急にかわいそうになります。


大名は太郎冠者から詳しく事情を聞き、感動して泣き出してしまいます。そして猿の命は取らないと伝えます。

急転直下の展開ですね。
猿引が自分の命の惜しさから一旦猿を殺そうとしましたが、猿が無心に芸をするのを見て、たとえ自分の命を取られようとも、自分で猿を殺すことはできないと悟ります。
大名は大名で、猿のけなげさに感動して、猿を打つことを止めさせたようです。猿の皮を1・2年借りるということが如何に無謀で無慈悲なことかに気づいて反省したというのではなく、目の前の展開に素直に反応して、感動してしまったということのようです。なんともお気楽な人ですね。
岩田さんは四者の様子を丁寧に描き分け、この展開を劇的に表現しています。